中編1の続きです。
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何時の間にか張り詰めた空気はどこかに行ってしまっていた。
だからでは無いが。
(言おう)
かなめは決意した。
‥‥きっと言わなきゃ、この馬鹿には一生伝わらない!
「――つまり‥‥俺 「べつに、もう怒ってないのよ。あんたの言うとおり。」 」
宗介が何か言いかけたが
ほぼ同時にかなめが口を切りかき消されてしまった。
「‥‥‥‥そうか、助かる」
「私は、その‥‥元気が無いのは‥‥」
不安だった。
そう彼と同じで。相手の事が心配だった。
本とはそれだけだった。
それを苛立って、怒って曖昧にしてしまったのは自分だ。
『あたしのことなんて、どうでもいいのだ』
なんて、どうしてそんな事を思えたのだろう‥‥。
去年のクリスマス。
パシフィック・クリサリスでの事件の時。
酷い事を言ったけれど、彼は一生懸命だった、守ってくれた。
何時だって命をかけて、大事にしてくれていたのだ。
彼の誠意を、優しさを、疑ったりなんて絶対してはいけないと
あの時思ったのでは無かったか?
(言わなきゃっ!!)
かなめは唇をきゅっと引き結んで、しっかり顔を上げて宗介を見据える。
瞬間眼が合ったので、思わず照れて笑ってしまったが‥‥。
しっかりとした口調で、ついに彼女は切り出した。
「あたしもね、同じ。
ソースケが何も言ってくれなくて不安だったの。」
「‥‥千鳥?」
「ソースケさ、朝からなんか隠してる。見てたら分かるよ。
何時も以上にボケッと何やら考えてるようだったし、
なーんか言いたそうにしてるくせにさ~、結局だんまり。
陰鬱なことこの上無いってのよ!」
かなめが大げさな手振りを加え、早口で言葉を次ぐ。
「酷い言われようだな」
宗介は傍らで汗をたらしていた。
「やかましい、とにかく!」
びしっと言うと、意志の強い瞳で宗介を見据え直した。
そしてゆっくりと、出来るだけ優しく、かなめは続ける。
「ソースケも、何かあるなら言って欲しい。
ほら‥‥なんか、あたしに出来る事だって少しはあるかも知れないでしょ?
黙って悩んでると、また‥‥ソースケ一人でどっか行っちゃうんじゃないかとか‥‥。
もう、帰って来ないんじゃないか‥‥‥‥とか‥‥‥‥
あれ‥‥?」
不意に、一粒涙が零れた。
すると連鎖的に両の目からボロボロと溢れ出した。
「あれ‥‥‥‥?あれ?
おかしいな~、うははっ。何泣いてんだろあたし。
あたしらしくも無いよ‥‥ね‥‥‥‥っ」
「千鳥」
千鳥が泣いている。
自分の為に、自分の事を思って泣いている。
香港の時の‥‥陰鬱な記憶が蘇る。
心が苦しい、張り裂けそうだ。
「‥‥っ‥‥ごめん‥‥ごめんね大丈夫だから
ホント、勝手に心配しちゃって‥怒って‥‥
ぐすっ‥馬鹿みたい‥っ‥」
だけど、心のどこかに確実にある。
彼女が自分と同じ気持ちで居てくれた事への
『高揚感。』
「‥‥何故謝るんだ千鳥。
謝るのは俺だ。また俺の為に‥‥
‥‥心配をかけて本当に、すまなかった。」
とは言っても、突然泣き出す彼女を前にどうしたらいいのか分からず、
宗介はただ両手をあたふたと上下させている。
結局、彼女の両肩に軽く手を乗せるので精一杯であった。
続く
今更ですが、時間軸はVMX以降と思っていただければ・・・・
「ついてこないでったら‥‥!」
かなめが大股で先を歩く。
「むぅ‥‥」
(困った、非常に困った)
あの騒動の後、彼女は一切口を効いてくれない。
最初は何時もの彼女のようにプリプリ怒ってるようであったが、
時間が立つに連れ何時もの彼女では無くなった。
どこか寂しそうで、不安そうで‥‥
そう、元気が無いのだ。
こんなかなめを見たのは何時以来だろう。
一人ぼっちにしてしまった時だろうか‥‥‥。
その時の事を思い出し宗介は堪らなく胸が締め付けられるような気持ちになった。
「千鳥」
「‥‥‥‥」
返答は無い。
「千鳥」
「‥‥‥‥‥‥」
(困った)
宗介は苦い顔をして俯いた。
自分は恐らく、「空気を読む」といった特技は持ち合わせていない。
そもそもその必要性というもの自体が良く解らない。
社会性を身につける前に、生き抜く術を覚えたからだろうか。
しかし今、この状況をどうするべきか、困窮している自分が居る。
目の前の人物を理解したいと、彼女の憂鬱を「どうにか」したいと。
他でもない自分が。
それは『他の誰であっても』いけない。
それはつまり、‥‥『そういうことだ。』
そうだ、決心したのではなかったのか、そもそも今日は‥‥
*******
宗介はそこまで考えて、顔を上げる。状況は、変わっていない。
二人の間にはズカズカと、彼女がアスファルトを踏みしめる音だけが虚しく響いて
『話しかけないで、ついて来ないで、ほっといて!!』
靴音が、そんな風に聞こえる。
気丈で力強いその態度とは裏腹に細い背中は相変わらず酷く頼りない。
『一人で大丈夫、一人で大丈夫、一人で大丈夫‥‥』
ひたすらそんな風に、聞こえてくる。けれど‥‥。
(本当に?)
その根底に、彼女の本質を見た気がした。
「千鳥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「ちど」
「あーうっさい!!
しつこいなーもーー!!何なのよ!!!!」
勢い良く振り返ったかなめが見たのは、悲しげな色を覗かせる宗介だった。
捨てられた仔犬のようなその表情‥‥、正直かなめは苦手だった。
「‥‥‥‥うっ、何よその顔は‥‥謝ったって‥‥」
「君に対する誤解で不快な思いをさせた事に関しては、その‥‥
何時もながら申し訳ないと思っている。弁解の余地も無い。」
「だったら!」
「しかし、君は怒っているのか?」
「‥‥‥‥はっ?」
怒っている人間に対して怒っているのかとは‥‥。
この状況で、この流れで、言うに事欠いてアンタは何を‥‥?
喉まで言葉が出掛かったところで宗介が続けた。
「怒っているだけなら、まだいい。
しかし君は、何と言うか。元気では無い。
話したくないのなら、構わない、直ぐに立ち去ろう。」
「ソー‥‥」
一瞬悲しみの色がさらに濃さを増した気がした。
「しかし、何か出来ることがあれば、言ってくれ。
君が黙って居るのは、心地がよくない。」
そこでかなめがピクリと眉尻をあげ、つぶやく。
「‥‥‥‥話してくれないのはアンタの方じゃない‥‥。」
「‥‥む?」
「なんでもない‥‥」
「心地が良くない、というか、落ち着かない。
俺は、君がそういう顔をしていると、なんだ、非常に都合が悪い‥‥。」
宗介は言葉を選んで言ったつもりだ。
かなめは彼が壊滅的に口が下手なことは解っている。
けれど、悲しいかな。
彼の不器用な言葉はかなめの地雷を踏みまくっていた‥‥‥‥。
(都合が悪いって何よ、あたしが悪いっての?!
あたしだって、話して欲しいのに。
隠し事をされたことが、凄く、不愉快なのに!)
昼休みの憂鬱な気分が蘇る。
(解ってない!全然解ってない!!
あたしのことなんてどうでも良いんだわ!
所詮コイツは救いようの無い戦争ボケなのよあたしの気持ちなんか‥‥)
あたしの気持ち‥‥?
―ただは自分は、構って欲しかっただけなのかもしれない。
いじけて、怒って、困らせて‥‥馬鹿みたい‥‥。
恥ずかしくて、なんだか悔しくて、かなめは何も言えなくなってしまった。
一方の宗介も何故かそれ以上は言葉に窮しているようだった。
俯いて、額に汗の筋を幾つか作って居る。
眼は泳いでおり、口は固く引き結ばれていた。
が、やがて唐突にその口が開かれる。
「‥‥心配なんだ。」
「‥‥‥‥?」
かなめはハッと顔を上げる。
「君は、笑っていた方が良い思う。
もし君が、今のように元気がないと、俺は不安で、悲しい。
すまない、迷惑かもしれないが‥‥、
俺に何か出来ることがあれば、何でも。力になりたい。
何とかしたいんだ。」
それは、イマイチ歯切れの悪い言い回しだった。
でも、彼は上を向いたり下を向いたりしながら言葉を選んで、『一生懸命』だ。
『悩みがあるなら話してごらん、君には笑顔が一番似合うよ』
とでも。
どこぞの金髪みたいに。
歯の浮くような台詞を、サラっと言えばいいだろうに‥‥‥‥。
かなめは思う。
きっと大抵の女の子はそれで機嫌を直すだろう、「それなり」に。
だけど彼には、出来ない。言えない。
それは彼の深い深い、「誠意」の顕れだ。
かなめはそんな彼がおかしくて、
それから、
自分の心の内から何か、ほの甘い、こそばゆい感情がこみ上げてくるのを感じていた。
続く
すいませんでした。
自分自身NOTがトラウマだったりするので書いてて辛かった(苦笑
原作のあの辺の部分に触れるのは何だか、とってもダメな気がするのですが
サイトを立ち上げるにあたって、絶対書こう、と思っていたものなので
書いてしまいました…。
読んでくださった方には色々と思い出させて、切ない思いをさせてしまったかもしれませんが;
私自身では、そーかなの幸せを願う、前向きSS・・・のつもりです。
アルとかウィスパードとかオムニスフィアとかその辺の勘違い設定は気持ちよくスルーして下さい;
勉強不足です。
あと私的解釈、私的ファンタジー的展開、本とにごめんなさい。
というか説明が下手で内容自体意味が解りませんね!コレ!!
あーもう、あーもう!プリーズ文才!!!
あーすいません;もうそれしか・・・!でも書きたかった!
余談ですが、ラヴい展開も頑張りました;
ああ難しいなあラブラブって。(笑
表現力が乏しい私にはアレで限界ですが、つぎはもっとこう、頑張ります。
読んでくださいましてどうも有難うございました!
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「‥‥ちどっ‥‥!!!」
視界が拓けたと同時に後頭部に鈍い痛みが走る。
目前に拡がるのは、学校でもかなめのマンションでも無い。
見慣れたモニターと各種機材。そして‥‥
『気が付きましたか軍曹殿?』
低い無機質な男性の声、正しくは人口声帯が作り出す声が響いた。
そう、そこはレーバテインのコックピットの中だった。
どうやら急に起き上がった勢いで思い切り後頭部を打ちつけたらしい。
「アルか‥‥‥‥」
『肯定です。
ところで軍曹殿、とても不機嫌なように見えますが、何かご不満が?
後頭部の打撲は軍曹殿の自業自得であり、医学的検知から見ても全く大した事はありませんが。』
「くそっ‥‥迂闊だ。
寝てしまったのか‥‥こんなところで」
宗介はアルの質問を無視して悪態をついた。
しかし続けてアルが意外な応答をする。
『いえ、軍曹殿は寝てはいません。
気を失っていたようです、しかもほんの数秒』
「‥‥?」
『脳波の状態も睡眠時のそれとは違って居ます、それよりも。』
「‥‥‥‥?」
『これは私の推測ですが、軍曹殿』
「なんだ‥‥?」
『軍曹殿はオムニスフィアを介して別の次元を見たのだと思われます』
「‥‥何?‥‥どういう事だ‥‥?
‥‥というよりも何故貴様がそんな事を‥‥‥‥」
『解りませんか?
ここはTAROSの中、ウィスパードでもないあなたが人為的にオムニスフィアに介する事も不可能では有りません。
それと同時に、どういう訳か、あなたの意識レベルがオムニスフィアの、
そのより深い領域に偶発的に近づいていたのでしょう。』
「‥‥つまり?」
『まだ解りませんか?』
「煩い、黙って続けろ。」
『ウィスパードの為す、共振に似た現象を起こしたということです。
あなたの強い思念が、何時かの何者かに届き、
そしてその何者かの思念が、あなたに届いた、鏡のように反射をして。
そしてあなたと、恐らくは未来からの思念が何らかの反応を起こし、
あなたはオムニスフィアのより深い領域へ‥‥、時間の概念を越えた世界に迷い込んだ』
「ハッキリといえ、それは、つまり‥‥。」
宗介の鼓動が高鳴る。
『心拍数が上昇しています軍曹殿。
つまり、これから起こるかもしれない未来。そこに居たのです。』
「なっ‥‥‥‥‥‥‥‥」
―――言葉が出なかった。
そう、今、ここに、宗介の傍にかなめは居ない。
何度も何度も取り戻そうとあがくけれども、
その手を掴む事は未だ叶わないまま‥‥。
会いたいと、触れたいと願い、夢に見た事もある
しかしこれまでのソレは全て夢であり、幻であり、掴んだ瞬間何時も消えてしまうのだった。
でも、今見てきた世界は‥‥?
彼女の声が、笑顔が、繋いだ手の温もりが、唇の感触が。
ほだされた心の余韻までも‥‥‥‥、鮮明に残っているのだ。
宗介はアルの言っている意味をイマイチ理解出来なかった
ただ、今まで見ていた世界のリアルな感覚だけは本物だった。
まさか‥‥本当に‥‥。
その時、宗介は頬に何か濡れたような感触を覚え触れてみる。
「‥‥涙?」
確かではないが、自分に泣いた様な記憶も余韻も無い。
覚えているのは触れ合った頬を伝ったかなめの‥‥‥‥。
『不思議な事もあるのですね、
軍曹殿、あの時に付着したものでしょうか?』
「?!」
自分の考えを先にアルに言われ、宗介が眼を丸くする。
そんな彼をよそにアルはベラベラと喋り続ける。
『しかし、ひとつ疑問があるのですが、あの時軍曹殿がミズ・チドリに対して行っていた行為には何の意味が?
必要以上に体を接触させ、さらに‥‥‥‥』
「待て‥‥‥‥‥‥!!何故貴様がそんな事を‥‥?
いや‥‥そもそも、オムニスフィアがどうとか、何故そんな推測が出来た?!」
『私にも解りかねます。実に不思議な事ですが、
軍曹殿と先ほどの記憶を共有しているようです。』
「なっ‥‥?!」
『皮膚と皮膚の一部を接触させることにより何か、
心理的、または身体的効果が見られるのでしょうか?
今後の為に、是非教育を、軍曹殿。』
‥‥見られていた、よりによってコイツに‥‥この減らず口のAIに‥‥‥‥!!
怒りとも羞恥ともいえない、複雑な思いがこみ上げ宗介は思わず口を荒げる。
「黙れ、それ以上無駄口を叩くと今度こそスクラップにするぞ?!」
『体温と心拍数値が異常です、メディカルチェックを受ける事をお勧めします』
「煩い!‥‥‥‥‥‥くっ一生の不覚だ」
ガンッ!
っと握りこぶしでアームレストを叩きつける。
その余韻は虚しくコックピット内に響くだけだった。
‥‥‥‥‥‥
そしてしばしの沈黙。
それを先に破ったのはアルだった。
『軍曹殿』
「黙れといった」
『これもまた推測に過ぎないのですが。』
「‥‥‥‥また推測か、いい加減な機械め。‥‥何だ?」
『以前あなたはラムダドライバを使いこなせませんでした、全く』
「‥‥‥‥だから何だ」
(今度は何故、ラムダドライバの話を‥‥?)
アルの減らず口にイチイチ躍起になるのにも疲れ淡々と応える。
アルは続ける。
『しかし、突然あなたは、その力を自分のものにした。
‥‥それは何故か、ずっと考えていたのですが』
「‥‥‥‥?
‥‥言って見ろ。」
(本当に何故今頃その事を‥‥?)
『それは軍曹殿、あなたのイメージの力、その違いです』
「イメージ‥‥?」
(‥‥‥‥‥‥‥‥?)
宗介は何故か、その時アルが何か大事な事を伝えようとしているのだと感じた。
相手は単なるAIなのに‥‥解っては居たが何故か、そう感じ取り、彼の言葉に聞き入っていた。
『ラムダドライバが駆動に成功したその時、
あなたは何時も目の前の目標への攻防のイメージを描いている。
しかしそれ以上に、その先にあるものを得ようと、
そう、「その先のイメージ」 すらも描いている。違いますか?』
‥‥‥‥‥‥
確かにそうだった。
上手く行ったときは何時も、目の前の敵に打勝つ、それだけでは無く
勝って、そして守りたいと、それから一緒に帰りたいと。
一緒に居る事を願うイメージを‥‥何時も抱いていた。
――そう、他でもない。千鳥かなめと。
そう気付いた瞬間、何か‥‥暗い空に一筋光が射した様な気がして、
宗介は思わず叫んでいた。
「‥‥アル‥‥!」
『それがあなたの力、そしてラムダドライバの真の効果だと私は推測します』
宗介の興奮をよそにアルは相変わらず淡々と続ける。
『イメージを物理的なエネルギーとして創造し、実現する、
その力場はあくまで、対峙する目標に接する範囲。
それがラムダドライバだと理解していました、
しかし若しかしたら。最終的に、究極的には。
もっと先の、もっと、不可視なものを、それこそを実現する力こそがその真髄なのではないかと。
‥‥つまり、あなたが私と共に行動することで、』
「解っている」
何時かマオに訊かれた。どうしたいのかと
何時かテッサに話した。どうありたいと
そして何時も、そこに、その中には、千鳥がいて‥‥‥‥‥‥。
そうだ‥‥‥‥。
その先のもの、イメージの先にあるもの。それは‥‥。
きっと人はそれを、夢と呼び、希望と呼び
未来と呼ぶ。
********
「‥‥‥‥出来るだろうか‥‥?」
『考えることですよ、軍曹殿』
「ふん‥‥、偉そうに‥‥」
言葉とは裏腹に心は熱いものがこみ上げていた。
『軍曹殿そろそろ、時間です』
「ああ」
きっと出来る。
何故だろうか、このAIの言葉に強い確信を持って同意していた。
それはもしかしたら、これまで共に闘って来た、切り拓いてきた
その『信頼』の証かもしれない。
自分の想いと、このレーバテインで、そうしたいと、叶えたいと行動する事で。
きっと掴める。きっと行ける。
―――じゃあ明日ね、そうね、10時ごろ、必ず来なさいよっ!!
必ず行く、必ず会いに行く。
彼女の待つ「未来」へ。
宗介は操縦桿を握り締め祈るように眼を閉じる。
すると、何時か聞いた‥‥、懐かしい声が聞こえてきた。
――‥‥‥‥想像して‥‥
――‥‥イメージを‥‥‥‥
かなめの笑顔を、温もりを、彼女と居る世界を、宗介は描く。
―――――‥‥‥‥‥‥今‥‥‥‥‥‥‥‥!
「行くぞ‥‥!!」
『了解。』
完
どれくらいの時間が流れただろうか。
そんなに永くなかったかもしれない、しかし彼には永遠のように感じられた。
宗介は静かにかなめを開放し、
「‥‥‥‥すまない」
思わず謝ってしまった。
何をしたのか、解っていた。どういう意味を持つのかも、解っていた。
ただ伝えたかった、けれど言葉では足りなかった、そう思うと、自然と体が動いていた。
でも突然の行動に、傷つけてしまったかもしれない、と少しずつ後悔の念が湧き上がってくる。
叱られた子供のようにおずおずと、祈るような気持ちで顔をあげる。
かなめは微笑んでいた。
「‥‥じゃあ、明日も‥‥」
「え‥‥?」
たどたどしくかなめが言葉を続ける。
「明日も、会おうよ。‥‥日曜日だけど、い、一緒に居よう。」
「ちど‥‥」
何か言おうとする宗介を遮るとかなめが急に勢いづいた。
「ねえ!‥‥どこか行きたいとこある?それとも家に来る‥‥?!」
「‥‥君の部屋が良い」
「ん、じゃあ、‥‥何か作ってあげる。何がいいかな~…」
そこでかなめは宗介に背を向け一人あーでもないこーでもないとメニューを練り始めた。
「千鳥‥‥俺は」
「ソースケ。」
「嬉しいよ‥‥凄く。
明日も、ううん何時も。
一緒に居たいの、‥‥ずっと。」
泣いているのだろうか、
かなめの声と細い背中が震えていた。
彼女の気持ちが嬉しかった。
彼女の全てが愛しかった。
宗介は抱きしめたい衝動に駆られ、近寄るが、そこでくるりとかなめが振り返った。
「じゃあ、じゃあ明日ね、そうね、10時ごろ、必ず来なさいよっ!!」
「ああ」
「急に任務が‥‥とかほざいたらマジで許さないからね!!」
「ああ、必ず行く」
「約束だから‥‥」
「ああ」
「ぜったい‥‥‥‥ん」
再び、宗介がかなめの言葉をその口で遮る。
先ほどよりも、少し深く口づけた。
それでも相変わらず優しいキス。
まるで、何時もの彼そのもののように不器用で、でも優しくて。
かなめの瞳から涙が零れ、宗介の頬を伝った。
―やがて、惜しむように離れ、見つめあう。
かなめの頬は涙に濡れていたが、神秘的で、とても美しかった。
それだけではない、とても印象的で‥‥何故か心の奥底に訴えるような‥‥
―――不意に宗介は不思議な感覚に陥った。
「待っているから」
「え?」
かなめが静かに、優しく語りかける。
「必ず‥‥、待っているから」
「千鳥‥‥?」
突然かなめの声が遠くに聞こえた。
いや、声だけではなく、彼女の姿も、ゆっくりと霞んでいく。
「千鳥――!?」
声が、姿が遠くなる、わけが解らず、宗介はただただ叫んでいた。
「だから、何時か‥‥絶対に‥‥」
「千鳥‥‥‥‥、千鳥―――!!!!!!」
――――――もう一度、会いにきて、ソースケ。――――――
彼女の声が途絶え、目の前に真っ白な世界が広がる。
最後に宗介が見たのは、
大好きな、彼女の笑顔。
続く