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続きです。4はコチラ。

********

「‥‥ちどっ‥‥!!!」



視界が拓けたと同時に後頭部に鈍い痛みが走る。
目前に拡がるのは、学校でもかなめのマンションでも無い。
見慣れたモニターと各種機材。そして‥‥

『気が付きましたか軍曹殿?』


低い無機質な男性の声、正しくは人口声帯が作り出す声が響いた。
そう、そこはレーバテインのコックピットの中だった。
どうやら急に起き上がった勢いで思い切り後頭部を打ちつけたらしい。




「アルか‥‥‥‥」

『肯定です。
ところで軍曹殿、とても不機嫌なように見えますが、何かご不満が?
後頭部の打撲は軍曹殿の自業自得であり、医学的検知から見ても全く大した事はありませんが。』

「くそっ‥‥迂闊だ。
寝てしまったのか‥‥こんなところで」

宗介はアルの質問を無視して悪態をついた。
しかし続けてアルが意外な応答をする。

『いえ、軍曹殿は寝てはいません。
気を失っていたようです、しかもほんの数秒』
「‥‥?」

『脳波の状態も睡眠時のそれとは違って居ます、それよりも。』
「‥‥‥‥?」

『これは私の推測ですが、軍曹殿』
「なんだ‥‥?」




『軍曹殿はオムニスフィアを介して別の次元を見たのだと思われます』

「‥‥何?‥‥どういう事だ‥‥?

‥‥というよりも何故貴様がそんな事を‥‥‥‥」


『解りませんか?

ここはTAROSの中、ウィスパードでもないあなたが人為的にオムニスフィアに介する事も不可能では有りません。
それと同時に、どういう訳か、あなたの意識レベルがオムニスフィアの、
そのより深い領域に偶発的に近づいていたのでしょう。』


「‥‥つまり?」
『まだ解りませんか?』
「煩い、黙って続けろ。」


『ウィスパードの為す、共振に似た現象を起こしたということです。
あなたの強い思念が、何時かの何者かに届き、
そしてその何者かの思念が、あなたに届いた、鏡のように反射をして。

そしてあなたと、恐らくは未来からの思念が何らかの反応を起こし、
あなたはオムニスフィアのより深い領域へ‥‥、時間の概念を越えた世界に迷い込んだ』


「ハッキリといえ、それは、つまり‥‥。」
宗介の鼓動が高鳴る。


『心拍数が上昇しています軍曹殿。

つまり、これから起こるかもしれない未来。そこに居たのです。』


「なっ‥‥‥‥‥‥‥‥」



―――言葉が出なかった。



そう、今、ここに、宗介の傍にかなめは居ない。
何度も何度も取り戻そうとあがくけれども、
その手を掴む事は未だ叶わないまま‥‥。

会いたいと、触れたいと願い、夢に見た事もある
しかしこれまでのソレは全て夢であり、幻であり、掴んだ瞬間何時も消えてしまうのだった。


でも、今見てきた世界は‥‥?



彼女の声が、笑顔が、繋いだ手の温もりが、唇の感触が。
ほだされた心の余韻までも‥‥‥‥、鮮明に残っているのだ。


宗介はアルの言っている意味をイマイチ理解出来なかった
ただ、今まで見ていた世界のリアルな感覚だけは本物だった。


まさか‥‥本当に‥‥。


その時、宗介は頬に何か濡れたような感触を覚え触れてみる。

「‥‥涙?」

確かではないが、自分に泣いた様な記憶も余韻も無い。
覚えているのは触れ合った頬を伝ったかなめの‥‥‥‥。



『不思議な事もあるのですね、
軍曹殿、あの時に付着したものでしょうか?』
「?!」
自分の考えを先にアルに言われ、宗介が眼を丸くする。
そんな彼をよそにアルはベラベラと喋り続ける。


『しかし、ひとつ疑問があるのですが、あの時軍曹殿がミズ・チドリに対して行っていた行為には何の意味が?
必要以上に体を接触させ、さらに‥‥‥‥』
「待て‥‥‥‥‥‥!!何故貴様がそんな事を‥‥?
いや‥‥そもそも、オムニスフィアがどうとか、何故そんな推測が出来た?!」

『私にも解りかねます。実に不思議な事ですが、
軍曹殿と先ほどの記憶を共有しているようです。』

「なっ‥‥?!」

『皮膚と皮膚の一部を接触させることにより何か、
心理的、または身体的効果が見られるのでしょうか?
今後の為に、是非教育を、軍曹殿。』



‥‥見られていた、よりによってコイツに‥‥この減らず口のAIに‥‥‥‥!!
怒りとも羞恥ともいえない、複雑な思いがこみ上げ宗介は思わず口を荒げる。

「黙れ、それ以上無駄口を叩くと今度こそスクラップにするぞ?!」
『体温と心拍数値が異常です、メディカルチェックを受ける事をお勧めします』
「煩い!‥‥‥‥‥‥くっ一生の不覚だ」


ガンッ!
っと握りこぶしでアームレストを叩きつける。
その余韻は虚しくコックピット内に響くだけだった。



‥‥‥‥‥‥



そしてしばしの沈黙。
それを先に破ったのはアルだった。



『軍曹殿』
「黙れといった」

『これもまた推測に過ぎないのですが。』
「‥‥‥‥また推測か、いい加減な機械め。‥‥何だ?」

『以前あなたはラムダドライバを使いこなせませんでした、全く』
「‥‥‥‥だから何だ」



(今度は何故、ラムダドライバの話を‥‥?)

アルの減らず口にイチイチ躍起になるのにも疲れ淡々と応える。
アルは続ける。

『しかし、突然あなたは、その力を自分のものにした。
‥‥それは何故か、ずっと考えていたのですが』
「‥‥‥‥?
‥‥言って見ろ。」

(本当に何故今頃その事を‥‥?)

『それは軍曹殿、あなたのイメージの力、その違いです』
「イメージ‥‥?」

(‥‥‥‥‥‥‥‥?)


宗介は何故か、その時アルが何か大事な事を伝えようとしているのだと感じた。
相手は単なるAIなのに‥‥解っては居たが何故か、そう感じ取り、彼の言葉に聞き入っていた。


『ラムダドライバが駆動に成功したその時、
あなたは何時も目の前の目標への攻防のイメージを描いている。
しかしそれ以上に、その先にあるものを得ようと、

そう、「その先のイメージ」 すらも描いている。違いますか?』


‥‥‥‥‥‥

確かにそうだった。
上手く行ったときは何時も、目の前の敵に打勝つ、それだけでは無く
勝って、そして守りたいと、それから一緒に帰りたいと。

一緒に居る事を願うイメージを‥‥何時も抱いていた。


――そう、他でもない。千鳥かなめと。





そう気付いた瞬間、何か‥‥暗い空に一筋光が射した様な気がして、
宗介は思わず叫んでいた。


「‥‥アル‥‥!」

『それがあなたの力、そしてラムダドライバの真の効果だと私は推測します』

宗介の興奮をよそにアルは相変わらず淡々と続ける。


『イメージを物理的なエネルギーとして創造し、実現する、
その力場はあくまで、対峙する目標に接する範囲。
それがラムダドライバだと理解していました、

しかし若しかしたら。最終的に、究極的には。
もっと先の、もっと、不可視なものを、それこそを実現する力こそがその真髄なのではないかと。

‥‥つまり、あなたが私と共に行動することで、』

「解っている」


何時かマオに訊かれた。どうしたいのかと
何時かテッサに話した。どうありたいと

そして何時も、そこに、その中には、千鳥がいて‥‥‥‥‥‥。



そうだ‥‥‥‥。
その先のもの、イメージの先にあるもの。それは‥‥。



   きっと人はそれを、夢と呼び、希望と呼び



   未来と呼ぶ。




********





「‥‥‥‥出来るだろうか‥‥?」
『考えることですよ、軍曹殿』

「ふん‥‥、偉そうに‥‥」

言葉とは裏腹に心は熱いものがこみ上げていた。




『軍曹殿そろそろ、時間です』
「ああ」





きっと出来る。

何故だろうか、このAIの言葉に強い確信を持って同意していた。
それはもしかしたら、これまで共に闘って来た、切り拓いてきた
その『信頼』の証かもしれない。


自分の想いと、このレーバテインで、そうしたいと、叶えたいと行動する事で。
きっと掴める。きっと行ける。

 

―――じゃあ明日ね、そうね、10時ごろ、必ず来なさいよっ!!


必ず行く、必ず会いに行く。
彼女の待つ「未来」へ。





宗介は操縦桿を握り締め祈るように眼を閉じる。
すると、何時か聞いた‥‥、懐かしい声が聞こえてきた。





――‥‥‥‥想像して‥‥
     
――‥‥イメージを‥‥‥‥





かなめの笑顔を、温もりを、彼女と居る世界を、宗介は描く。






            ―――――‥‥‥‥‥‥今‥‥‥‥‥‥‥‥!





「行くぞ‥‥!!」 
『了解。』


 

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