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中編1の続きです。


*******

 


何時の間にか張り詰めた空気はどこかに行ってしまっていた。

だからでは無いが。

(言おう)
かなめは決意した。

‥‥きっと言わなきゃ、この馬鹿には一生伝わらない!

「――つまり‥‥俺 「べつに、もう怒ってないのよ。あんたの言うとおり。」 」

宗介が何か言いかけたが
ほぼ同時にかなめが口を切りかき消されてしまった。


「‥‥‥‥そうか、助かる」

「私は、その‥‥元気が無いのは‥‥」


不安だった。
そう彼と同じで。相手の事が心配だった。

本とはそれだけだった。
それを苛立って、怒って曖昧にしてしまったのは自分だ。
『あたしのことなんて、どうでもいいのだ』
なんて、どうしてそんな事を思えたのだろう‥‥。


去年のクリスマス。
パシフィック・クリサリスでの事件の時。
酷い事を言ったけれど、彼は一生懸命だった、守ってくれた。
何時だって命をかけて、大事にしてくれていたのだ。

彼の誠意を、優しさを、疑ったりなんて絶対してはいけないと
あの時思ったのでは無かったか?


(言わなきゃっ!!)

かなめは唇をきゅっと引き結んで、しっかり顔を上げて宗介を見据える。
瞬間眼が合ったので、思わず照れて笑ってしまったが‥‥。
しっかりとした口調で、ついに彼女は切り出した。

「あたしもね、同じ。
ソースケが何も言ってくれなくて不安だったの。」

「‥‥千鳥?」

「ソースケさ、朝からなんか隠してる。見てたら分かるよ。
何時も以上にボケッと何やら考えてるようだったし、
なーんか言いたそうにしてるくせにさ~、結局だんまり。
陰鬱なことこの上無いってのよ!」
かなめが大げさな手振りを加え、早口で言葉を次ぐ。

「酷い言われようだな」
宗介は傍らで汗をたらしていた。

「やかましい、とにかく!」

びしっと言うと、意志の強い瞳で宗介を見据え直した。
そしてゆっくりと、出来るだけ優しく、かなめは続ける。

「ソースケも、何かあるなら言って欲しい。
ほら‥‥なんか、あたしに出来る事だって少しはあるかも知れないでしょ?

黙って悩んでると、また‥‥ソースケ一人でどっか行っちゃうんじゃないかとか‥‥。
もう、帰って来ないんじゃないか‥‥‥‥とか‥‥‥‥

あれ‥‥?」

不意に、一粒涙が零れた。
すると連鎖的に両の目からボロボロと溢れ出した。


「あれ‥‥‥‥?あれ?
おかしいな~、うははっ。何泣いてんだろあたし。

あたしらしくも無いよ‥‥ね‥‥‥‥っ」


「千鳥」
千鳥が泣いている。
自分の為に、自分の事を思って泣いている。
香港の時の‥‥陰鬱な記憶が蘇る。

心が苦しい、張り裂けそうだ。

「‥‥っ‥‥ごめん‥‥ごめんね大丈夫だから
ホント、勝手に心配しちゃって‥怒って‥‥
ぐすっ‥馬鹿みたい‥っ‥」

だけど、心のどこかに確実にある。
彼女が自分と同じ気持ちで居てくれた事への

『高揚感。』


「‥‥何故謝るんだ千鳥。

謝るのは俺だ。また俺の為に‥‥
‥‥心配をかけて本当に、すまなかった。」


とは言っても、突然泣き出す彼女を前にどうしたらいいのか分からず、
宗介はただ両手をあたふたと上下させている。

結局、彼女の両肩に軽く手を乗せるので精一杯であった。


続く

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