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前編の続きです。
今更ですが、時間軸はVMX以降と思っていただければ・・・・

 


「ついてこないでったら‥‥!」
かなめが大股で先を歩く。

「むぅ‥‥」

 

 


(困った、非常に困った)

あの騒動の後、彼女は一切口を効いてくれない。
最初は何時もの彼女のようにプリプリ怒ってるようであったが、
時間が立つに連れ何時もの彼女では無くなった。

どこか寂しそうで、不安そうで‥‥

そう、元気が無いのだ。

こんなかなめを見たのは何時以来だろう。
一人ぼっちにしてしまった時だろうか‥‥‥。
その時の事を思い出し宗介は堪らなく胸が締め付けられるような気持ちになった。


「千鳥」

「‥‥‥‥」

返答は無い。

 「千鳥」

「‥‥‥‥‥‥」

 (困った)
宗介は苦い顔をして俯いた。

自分は恐らく、「空気を読む」といった特技は持ち合わせていない。
そもそもその必要性というもの自体が良く解らない。
社会性を身につける前に、生き抜く術を覚えたからだろうか。

しかし今、この状況をどうするべきか、困窮している自分が居る。
目の前の人物を理解したいと、彼女の憂鬱を「どうにか」したいと。
他でもない自分が。
それは『他の誰であっても』いけない。

 
それはつまり、‥‥『そういうことだ。』

そうだ、決心したのではなかったのか、そもそも今日は‥‥

 
*******

 
宗介はそこまで考えて、顔を上げる。状況は、変わっていない。

二人の間にはズカズカと、彼女がアスファルトを踏みしめる音だけが虚しく響いて
『話しかけないで、ついて来ないで、ほっといて!!』
靴音が、そんな風に聞こえる。

気丈で力強いその態度とは裏腹に細い背中は相変わらず酷く頼りない。
『一人で大丈夫、一人で大丈夫、一人で大丈夫‥‥』
ひたすらそんな風に、聞こえてくる。けれど‥‥。
(本当に?)

その根底に、彼女の本質を見た気がした。

 

「千鳥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「ちど」

 

「あーうっさい!!
しつこいなーもーー!!何なのよ!!!!」

勢い良く振り返ったかなめが見たのは、悲しげな色を覗かせる宗介だった。
捨てられた仔犬のようなその表情‥‥、正直かなめは苦手だった。

「‥‥‥‥うっ、何よその顔は‥‥謝ったって‥‥」

「君に対する誤解で不快な思いをさせた事に関しては、その‥‥
何時もながら申し訳ないと思っている。弁解の余地も無い。」

「だったら!」

「しかし、君は怒っているのか?」

「‥‥‥‥はっ?」

怒っている人間に対して怒っているのかとは‥‥。
この状況で、この流れで、言うに事欠いてアンタは何を‥‥?
喉まで言葉が出掛かったところで宗介が続けた。

「怒っているだけなら、まだいい。
しかし君は、何と言うか。元気では無い。

話したくないのなら、構わない、直ぐに立ち去ろう。」

「ソー‥‥」
一瞬悲しみの色がさらに濃さを増した気がした。

「しかし、何か出来ることがあれば、言ってくれ。
君が黙って居るのは、心地がよくない。」


そこでかなめがピクリと眉尻をあげ、つぶやく。
「‥‥‥‥話してくれないのはアンタの方じゃない‥‥。」

「‥‥む?」
「なんでもない‥‥」


「心地が良くない、というか、落ち着かない。
俺は、君がそういう顔をしていると、なんだ、非常に都合が悪い‥‥。」

宗介は言葉を選んで言ったつもりだ。
かなめは彼が壊滅的に口が下手なことは解っている。

けれど、悲しいかな。
彼の不器用な言葉はかなめの地雷を踏みまくっていた‥‥‥‥。


(都合が悪いって何よ、あたしが悪いっての?!
 あたしだって、話して欲しいのに。
 隠し事をされたことが、凄く、不愉快なのに!)

昼休みの憂鬱な気分が蘇る。

(解ってない!全然解ってない!!
 あたしのことなんてどうでも良いんだわ!
 所詮コイツは救いようの無い戦争ボケなのよあたしの気持ちなんか‥‥)


あたしの気持ち‥‥?

―ただは自分は、構って欲しかっただけなのかもしれない。
  いじけて、怒って、困らせて‥‥馬鹿みたい‥‥。

恥ずかしくて、なんだか悔しくて、かなめは何も言えなくなってしまった。
一方の宗介も何故かそれ以上は言葉に窮しているようだった。

俯いて、額に汗の筋を幾つか作って居る。
眼は泳いでおり、口は固く引き結ばれていた。
が、やがて唐突にその口が開かれる。


「‥‥心配なんだ。」
「‥‥‥‥?」
かなめはハッと顔を上げる。


「君は、笑っていた方が良い思う。
もし君が、今のように元気がないと、俺は不安で、悲しい。

すまない、迷惑かもしれないが‥‥、
俺に何か出来ることがあれば、何でも。力になりたい。

何とかしたいんだ。」


それは、イマイチ歯切れの悪い言い回しだった。
でも、彼は上を向いたり下を向いたりしながら言葉を選んで、『一生懸命』だ。

『悩みがあるなら話してごらん、君には笑顔が一番似合うよ』
とでも。
どこぞの金髪みたいに。
歯の浮くような台詞を、サラっと言えばいいだろうに‥‥‥‥。

かなめは思う。

きっと大抵の女の子はそれで機嫌を直すだろう、「それなり」に。

だけど彼には、出来ない。言えない。
それは彼の深い深い、「誠意」の顕れだ。

かなめはそんな彼がおかしくて、
それから、

自分の心の内から何か、ほの甘い、こそばゆい感情がこみ上げてくるのを感じていた。


続く

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