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中編の続きです。季節の設定はおかしいですがあくまでもVMC~OMO間の話です。;


宗介と別れ各々の自室に戻った後、かなめは簡単な晩ご飯を作って食べた。
だけど何だか、胸がイッパイで、喉を通ってくれなくて‥‥それを平らげるのに随分苦労した。

それから何気なくテレビを点ける。
ブラウン管にはかなめの好きな野球選手が写し出され、彼は何やら雄弁にインタビューに応えている。
かなめは一応その映像に興味を示そう‥‥としたが、放映の内容が何も頭に入ってこない。
やがて画面は移り変わり、情報がかなめの耳を右から左へ、次から次へとただ流れていく。
覚えているのは『お天気コーナー』のみ。

(やっぱり明日は晴れ‥‥)

無意識に顔がほころんで、また胸がイッパイになる。
なんだか心許なくて、手近にあった『ボン太くん』人形をぎゅぅ~~~っと抱きすくめた。

(‥‥どうしよう、どうしよう、どうしよう‥‥!!)
何が?という答えはなく、ただただ頭の中を『どうしよう』が行ったり来たりしていた。

「‥‥‥‥どうしようっ‥‥!!」
今度は口に出して言って、ソファーの上でごろりとひっくり返ってうつ伏せになった‥‥
かと思えば、またしても裏がえって今度は天井を見つめ、かなめは唐突に叫ぶ。

「‥‥あーっもうっっ! 情けないっ!! 何動揺してんのよお!!」
先程から言う事を聞かない自分の身体や心に、なんだか少し腹が立ってきていた。

「なによっ! たかが戦争ボケの一人や二人や三人や四人!! あんなのが何人束になろうとこのあたしの敵じゃないわねっ!!
あたしを少しばかり惑わせたからっていい気になるんじゃないってのよチクショー!!」
ワケのわからない虚勢を張り始めた。
ちなみに今かなめは天井に向かって話しかけているが、その方向には誰も居ない。

「落ち着くのよあたし、何てこと無いわ、そうよ。 そう、たかがデート、デート、でーと‥‥‥‥‥‥‥‥」


 ‥‥D・A・T・E‥‥!!!


突然かなめの脳内のタイプライターが壊れた様にしつこくしつこく英語の4レター『D・A・T・E』を打ち出し始めた。

「い、いや~~~っ!!!」
かなめは唐突に黄色い声をあげ、ごろんごろんと転がりだす。

「デートって‥‥! あいつデートって!! 話したいって、一緒に居たいって!! あの朴念仁がっ!! あのキング・オブ・ミリタリーヴァカがっ!!」
酷い言い様で騒いでいたが、その顔は満面の笑顔だ。 
かなめはごろごろしたりジタバタしたりボン太くんをつねつねしてみたり、大忙しの様子だ。

「どーしよーーーーっっ!! って、うわっ‥‥」

――ドスン!

「‥‥あいたぁっ!!」

鈍い音を伴ってかなめはソファーから転がり落ちた。
まあ、狭いソファーでごろんごろんやれば、転がり落ちるのは当然の顛末であろう。
かなめは腰を思いっきり打ちつけ、暫く声も出せなくなっていた。
が。

「‥‥ふふふふふ。 ふふ。」

ソファーの下から突如、声が漏れた。
かなめが笑っている、ソファーから落ちたのに、笑っている‥‥。
(ちなみに頭は打っていない)

「ふふふ~~~♪‥‥‥‥ふふっ‥‥」
ソファーの下に落っこちたまま、抱いていたボン太くんをもう一度ぎゅう~~っとして顔を埋めた。
髪の毛の隙間から覗くその頬は真っ赤だった。

「‥‥‥‥ねぇボン太くん。 明日は一体どうしてくれるの‥‥‥‥? 」
sashie8.jpg


*****


「どーーーしてくれんのよっっ!!!」
ポンポンポンポンポンポン‥‥

「なにがだ? 千鳥?」
ポンポンポンポンポンポン‥‥

「なにがじゃないでしょ!! これで一体これから‥‥」
ポンポンポンポンポンポン‥‥

「‥‥だぁー、もうっ! ポンポンポンポンうっさいわね!! 兎に角よソースケ‥‥この文字を読んで御覧なさい」
かなめは頭上にたなびく布を指差して言う、なにやら書いてあるようだ。

「‥‥何故だ? おかしな事を言うな、君は」
宗介は小首をかしげて怪訝な顔で返す。

「いーから、読みなさいっ!!」
「第四強運丸」

「そう、第四強運丸よ。 つまりなに?!」
「船名だが?」
事も無げな物言いがかなめは少し悔しくて悪態をつく。

「くそっ、いけしゃーしゃーと‥‥。 つ・ま・り・漁船よ漁船、しかもっ!」
かなめはビシッと人差し指を差しだした。その先に電球がズラリと並んでいる。

「イカ釣り漁船じゃないこれーーーーーーー!!」

そういったかなめの声が青空に高らかにこだました。

――そうココは船のデッキ、二人は今関東沖の海の上に居たのだった。
その日宗介は朝早くに迎えに来て、かなめはされるがままについて行って今に至る。


心なしかまだ、かなめの叫びがエコーしている。やがてそれが聞こえなくなった頃にようやく宗介は応えた。

「そうだが。 何か?」
またしても何事も無かったかの様な顔で言うので、かなめの興奮もいよいよ冷めた。

「いや‥‥だから、これからどうすんのよコレで、銚子にでも行きたいの? あんたはあたしとイカが喰いたかった訳‥‥??」
かなめがイカをおびき寄せる為とおぼしき電球をコツコツと小突きながら言う。

「それは誤解だ。 この船は間に合わせだ、話しが急だったのでな。」
思いの外、さも意外そうな顔で宗介は否定した。

「‥‥そ、そうなの? 良かった‥‥。 でどこに行くの?」
若しかしたらちょっとビックリするようなところに連れて行かれるんじゃないかな‥‥という予想はかなめにもあった。
宗介のやる事だから。 だから大抵の事は眼をつぶろうと思っていた‥‥が、 『初めてのデートで本格的にイカ釣り』 それは正直無い。
だから心底ほっとした様子でかなめは訊いた。すると宗介は何故か、コメカミあたりから汗を一筋たらして口篭る。

「うむ。 まあその、なんだ。 ‥‥着けば分かる。」
やっと口を開いたかと思うと、なんとも曖昧な返答が返って来た。

「‥‥? ふーん?」


*****


ポンポンポンポンポンポン‥‥
漁船は今時珍しい古いタイプのエンジンを載せており、その為絶えず特徴的な音と、輪っかのような煙を出していた。

「にしてもマヌケな音ね‥‥」
デッキの淵に腰掛けてかなめが感想を述べる。
すると、宗介は操縦席から返事を返す。
何時何処で手に入れたのか、正式なものか不明だが船舶免許を持っているらしい。
「そんなことはないぞ、こうやって聞いていると、士気を上げんとする味方の鼓舞のようでまるで‥‥」
「‥‥ま、いーわよ。 で、ところでこの船どうやって手に入れたの? 」
宗介の話の方向が読めたため、話も半ばにかなめが割って入る。

「クルツだ。 奴が江戸川区に居たときの知り合いの伝手らしい」
「あんにゃろ‥‥‥‥」
ちらりと船内を一瞥すると、電球だの良く解らない設備だの‥‥まあ兎に角シュールな光景が広がっていた。
かなめはなるべくそれらを視界に入れない様努めていたが、どうにもならないこの音‥‥。

(ムードなんてあったもんじゃないなあ‥‥。)
かなめは溜息をひとつ、つこうとしたが、隣に居る宗介の表情を見て思いとどまった。
それから思い切り背伸びをして、その全身で風を感じた。

「うーん‥‥。 気持ちいい~」

贅沢を言わなければ、青空も日差しも風も最高だ。

「晴れてよかったなあ~」
その空のように晴れやかな表情でかなめが言う。
「そうだな」
宗介も同意して呟いた。
かなめからは横顔で、しかも日差しが眩しくてハッキリ見えなかったけれど、その時の彼は嬉しそうに見えた。

sashie9.jpg


続く

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