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後編4の続き。(本来、これも含め「後編4」だったのですが長いので区切りました。)

「‥‥それにしても、釣れないね。ソースケ。」
「まあ、こういう日もあるのだ。」
「あはは、そうかもね、ドンマイ。‥‥でもあたし、楽しかったな‥‥。」
「そうか‥‥。」
「うん、連れて来てくれて有難う、ソースケ」
そういって、今度は彼の膝に頬を寄せる。
「いや、俺の方こそ。良い時間を過ごさせて貰った、君には感謝している。」
「ふふふ、大袈裟なヤツ。 でもソースケ、凄く良い顔してたよ‥‥」
「そうか‥‥」

宗介は、彼女の言葉を噛締めるように眼を閉じる。
それから暫くその心地よい空間を共有するように黙り、五感を研ぎ澄ました。

あたりは静寂に包まれている。けれど先程の様に寂しいものではもう、無かった。
夜風は涼しく、波音は耳に心地良い。そして膝の上に、かけがえの無い少女の温もりを感じる。
何か話をするでもなく、ただそれだけで、そこに居るだけで。
彼の心は温かいものに満たされ、言いようの無い幸福感を覚える。

この気持ちを、この幸せな感情を得た事を。どう言葉に尽くせばいいか解らないけれど。

「‥‥感謝しているんだ、本当に」
宗介はそう言って、まどろむ彼女の髪に触れてみた。
「‥‥‥‥ん?‥‥そーだね楽しかったね‥‥」
かなめは尚も寝ぼけた様子で、頬を寄せて微笑む。
「ああ、楽しかった。」
「ん‥‥ふふ」
「有難う、嬉しかった。」
笑ってくれて、喜んでくれて。それから、何時も大事な事を教えてくれて。

かなめはぼやけた視界の中にも、宗介の真摯な眼差しだけを確かに感じていた。
「‥‥どうしたの?」
「‥‥言わなければならないんだ」
「‥‥‥‥ん?」

だからここまで来たのだ。
そう、伝えなければ。

溢れそうな程の喜び、感謝の想い、
郷愁、憧憬、それから独占欲。
白と黒だった自分の世界を彩る様々な『情熱』。
それらを何と呼ぶか、彼にはもう解っていた。
だから、伝えなければならないのだ。

「君に会えて、本当に、‥‥その、良かった‥‥」

宗介は訥々と、吐き出し始めた。

「本当に‥‥嬉しかったんだ。 だから‥‥」

なかなか言葉を紡げず、彼の言葉は闇の静寂に溶けて行く。
暫しの沈黙が二人の間を訪れた、その時。

黙って聞いていたかなめが唐突に彼の首に両手を回した。
「‥‥千鳥?」
少し驚いて、彼女の表情を伺うと、彼女は穏やかな笑顔を称えて、言った。

「ソースケ、あたし今ね、もー半分‥‥ノーミソ寝てるかも。」
イタズラに笑い、宗介を優しく引き寄せてそれから、

「‥‥だからなんだかね。」
うわ言の様に呟き、その深い色の瞳に宗介を映した。‥‥それから

「ちど‥‥り?」

それから‥‥。

「夢みたいだよ‥‥。」

それから、かなめはギュッと‥‥彼を抱き寄せた。
 

宗介はかなめの首筋あたりに顔を埋める形となり、鼻腔を甘い匂いがくすぐった。
「夢ではない」
「そーだね。‥‥ソースケあったかいもの。」
「ん‥‥。」
宗介は大人しく、諭される子供みたいに、彼女の言葉を聞いていた。

「あたしも、嬉しいよ。ソースケに会えて。 だからね、これからも‥‥こんな風にずっと‥‥」
「‥‥‥‥。」

かなめの腕の中で言い様の無い安息感を覚え、そのまま彼女とまどろみの中に落ちてしまいそうだった。
だけど、今ならば、いや今だから、言える、言わなければ。
「千鳥」
宗介は膝の上からかなめを抱き上げて、包み込んだ。
「その‥‥千鳥、俺は。」

そこで彼は一度俯き、深く呼吸して唇を引き結ぶ。
それから瞬秒後、覚悟を決める様に顔を上げると、彼は一気に吐き出した。

「俺は君が好きだ。」
 

言った。ついに‥‥言ったのだ。

去年のクリスマスから気付き始めた想い。
彼女を護りたい、彼女と共に居たい、ずっと。
そう願うならば何時かは伝えなければならない、そんな気がしていた。

「千鳥‥‥」
彼女は沈黙している。

彼女がなんと応えるか‥‥正直そこまで考えては居なかった。
だからこの沈黙が、いやに長く感じられ、そして、恐ろしい。

「‥‥‥‥」
長い長い沈黙‥‥、宗介は溜まらずダラダラと汗を流し始める。
「ち、千鳥‥‥?」

相変わらず返答が無い。
宗介はいよいよ、腹の底からふつふつと、根の暗い絶望感が沸いて来るのを感じ始めていた。
心なしか彼の周りの空気が重く淀んでいる様に見える。
けれど宗介は今回ばかりは根気強く、覚悟を決めて彼女に問いかけてみる。

「千鳥‥‥頼む、応えてくれないか‥‥。」

苦渋の表情で、宗介は返答を待つ。すると突然彼女が応えた。
「んーむにゃ‥‥」
宗介には到底理解不能な不思議言語で。

「ち、千鳥。 すまないがその、意味が解らないのだが‥‥。」
そう言って、かなめの顔を覗き込んだ。すると‥‥

「すーすー」

かなめはしっかりと眼を閉じ、穏やかな『寝息』を立てていた。
「‥‥‥寝て‥‥しまったの、か‥‥。」
宗介はがくりと項垂れた。
彼の一世一代の告白、それは何とも中途半端に未遂に終わってしまった。
宗介は思わず気が抜けてしまったが、同時にホッとした様な、命拾いしたような‥‥複雑な心境だ。

「うーん‥‥むにゃー。」
そんな宗介の気も知らず、かなめは彼の胸元で気持ち良さそうにムニャムニャ言っている。
そんな彼女を見ていると、それだけでまた、心は温もりで満ち足りた。

宗介は静かに、無骨な自分の手で壊さない様にと、注意深く彼女を抱きしめる。
すると。

「んー…?んふふ……ソースケー……?」
彼女を起こしてしまった様だ。
「肯定だ……」
宗介は申し訳なさそうに応えるが

「ソースケが居るー……、なんでえ~? でも嬉しいなぁー……、‥‥ むにゃ~」
かなめは頬を擦り寄せると、また直ぐに眠りに落ちた。
その表情は本当に幸せそうに見える。

「うむ。」
互いの気持ちは繋がって居るようだ。宗介は心底満足気に頷いて。
「今日のところは、これで良しとしよう」
まあまあの健闘をした自分に妥協を許すのであった。


だけど。

―君が好きだ。
―好きで、どうしようも無い。
―君に、言葉では伝え切れないほど感謝している……。

―…愛しているんだ…。


彼の内で、伝えられなかった想いが未だシンシンと、雪のように降り積もっていた。

何時か、何時か伝えよう。必ず。君に。
それまで俺が護る。この平穏を、安らぎを、君の居る世界を。

それからまた、静かに彼女を抱き寄せた。


エピローグ

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