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後編3の続きです。
今後バカップル全開です。恥ずかしくて死にそうです!


「ふ、ふぁあ‥‥」
かなめが突然大きな欠伸をした。
「千鳥、眠いのか?」
「うん、ちょっと、昨日あんまり寝て無くて」
そう言ってかなめは人差し指で涙を拭う。すると宗介が一瞬怪訝な顔をした後、ベラベラと喋り出す。

「昨晩‥‥どうしかしたのか? 一晩中何者かにレイザー・サイトで狙われていたとでも言うのか?
いや、有り得ん。 君の居住周辺の警戒は完璧だ。 不正に進入したら最後、俺の手の内で踊らせた挙句、
親類縁者問わず尋問に次ぐ尋問を施す。最終的には廃人だ。」
「‥‥あたしイヤな所に住んでるんだなあ‥‥。 あのねソースケ全然そうじゃないのよ、大丈夫。」
「む?」
何時もの誇大妄想っぷりには驚きだが『寝不足だ』というそれだけの理由で心配をしてくれたらしい。

「なんか、なかなか寝れなくて。 何着よっかな~、て一人で夜中にファッションショーしたり‥‥はっ!!」
宗介の過保護が嬉しかったかなめはついつい正直に応えてしまった。
(やだ、これじゃまるで物凄い楽しみにしてたみたい‥‥してたけど)
しかし、宗介はそんなかなめの機微など気付くはずも無く、物騒な意見を述べる。

「成る程、合点が行った。服選びには俺も時間をかける。
耐久性、防弾性、あらゆる状況を常に想定して不測の事態に備えねばならないからな。」
「はあ‥‥そうですか。」
「‥‥しかし、君は時間をかけて選んだと言うには‥‥。」
「‥‥ん?」
言うと宗介はかなめを一瞥して、直ぐに困った顔をして正面を向き直った。
「なんだ。 あまり大勢の前でそういった服装はしない方が良いと、思うぞ。」
「むっ、なんでよ! 不測の事態とやらには向かないから?」
途端にかなめが御機嫌斜めになり、宗介は歯切れ悪く答えた。
「‥‥それもある、それもあるのだが‥‥。その、なんだ。一般的な意味合いで言って無防備だ‥‥。」

言われてかなめは自分の服装を確認する。
肩口が大きく開き、胸元にふんわりしたフリルの付いたチュニックキャミソールと、見事な脚線を際立てる健康的なショートパンツ。
(‥‥ちょっとハリキリすぎちゃったのかなあ‥‥)
何時もより少し女らしく、可愛らしく、尚且つ色っぽく‥‥。
そういうものに関心を持つようなヤツじゃない事は解っていたけど、少しは気に留めて欲しくて、『頑張った』のだ。
昨日の自分を恥じるやら情けないやら、かなめは急に気落ちしてシュン、となる。

流石の宗介も、自分のせいでかなめが酷く落胆している事くらい解った。
そこで彼は、彼女に掛けるべき言葉を暗中模索する。
「‥‥今日は良いのだが。」
ようやく言葉を捻り出した。
「え?」

「俺個人の、意見としては‥‥悪くないと、思う。」
無愛想にそう、言い放った。
「‥‥ふーん。」
そういって、かなめは嬉しそうに微笑んで、彼との距離を少しだけつめて座り直す。

******

暫く宗介は、動きの無い海面と、移り行く空の景色を交互に眺めていた。
すると―、 ふいに左肩に『ふわり』と何かの重みを感じた。
「‥‥‥‥ん~」
「千鳥‥‥?」
そちらの方を見ると、かなめがコクリ、コクリと揺れながら、宗介の肩にもたれ掛ろうとしていた。
夢との狭間を行き来しながらも彼の肩に頼ってしまわない様、体勢を戻そうと努めている様だ。
その姿が彼女らしく、何だかとても健気に思える。
「大分眠いようだな、少し寝たらどうだ?」
そんな彼女に宗介は宥めるように促す。
「う、うーんでも~‥‥寄り掛かっちゃったら邪魔でしょ~‥‥」
「いやそんな事は無いが‥‥」
宗介は言うが、かなめは彼の隣からフラフラと離れる。
それからおもむろに後ろに回りストンと腰を降ろした。

「この方が楽かな‥‥? 悪いけど背中貸して貰うわね」
そう言うと、かなめは宗介と背中を合わせ、ゆっくりとその体を沈ませる。


 

かなめが背中で黙ると、あたりはシン‥‥と静まり返った。
その瞬間、ふいに彼女が隣に居ない事に、宗介は言い知れぬ不安を覚える。

(どうも、落ち着かない。)

夕暮れの静けさがどこか不穏なニュアンスを含み、空の色は少し褪せた気がする‥‥。
隣を見れば彼女が居て、笑っていて、嬉しくて。自分の顔も思わず綻んだ。
そんな風に長い時間過ごし、まるでそれが当たり前の事のように思えていた。

それが最早遠い昔の事の様に思える。
隣に居た彼女は今も、直ぐ近くに居るのに‥‥。 尚、恋しく思う。
背中には確かな重みと温もりが在る。けれど、今はそれだけが感じ得る全て。
その唯一の存在が無性に愛惜しく、掛替えの無いものに思え、彼の孤独に拍車をかける。

『郷愁』

突然宗介の脳裏にぼんやりと、その言葉が浮かんだ。

先日古典の授業で聞いたばかりの単語だ。
その時、不思議と彼はその単語の意味をすんなりと理解した。
理由は解らなかったが、そんな想いを知っているような気がして。

しかし今この瞬間、その理由が明白となる。

何時も、最後には『そこ』に戻りたいと、その隣に居たいと切望していた。
孤独を教えられ、恋しく想う、何時も会いたいと想う。

『郷愁』

彼にとって、かなめはその象徴だった。


唐突に悟った瞬間、彼はそんな自分をおかしく思った、けれど決して悪い気はしなかった。
だから、ごく自然な感情の横溢に身を委ねてみる。

決して一人ではないのに、一人よりも鮮明な孤独感。――それはとても不思議な感情。

無性に‥‥彼女の顔が見たい。

 

******


「むぅー‥‥」
背中のかなめが寝心地を模索してもそもそと身動きした。
まだ起きている様だ。
「千鳥」
「‥‥ん?」
「眠いところすまない、一つ頼みを聞いてくれないだろうか?」
「‥‥へ?‥‥なあに?」
かなめは不思議そうに顔だけ宗介の方を向く。
肩越しに見える宗介はただムッツリと穏やかな波間を見つめている。
暫くすると、背中越しに彼の肺が息を吸い込んで膨らんだのを感じた。

「‥‥隣に居てくれないか。」
宗介はゆっくり、息を吐き出すように言葉を漏らし、顔だけかなめを振り返る。

ところが次の瞬間、彼に『不測の事態』が訪れた、かなめがこちらを見ているとは思わなかったのだ。

振り返ると直ぐに、彼女の大きな瞳が飛び込んできた。
トロン‥‥と眠そうに半開きになっているが、二つの深い茶の瞳は不思議な力を湛えている。
万一彼女が敵であれば自分に命は無いだろう、身動き一つ取れないのだから。

息がかかるほどの距離。
唯一聞こえる波の音よりも互いの鼓動の音が大きく聞こえていた。

自分の内に、表面張力だけで保っているかのような『何か』が在る、
それに少しでも触れれば零れ落ちて、未知の衝動に呑み込まれる事だろう。
鈍感な宗介にもそれが解った。

顔が、唇が、無意識に引き寄せられる。

 後数センチ‥‥
 後数ミリ‥‥

ところが。


「‥‥ん~、ま、いいけど。」
突然かなめが間の抜けた声を漏らし、その緊張を突き破った。
「‥‥?!」
先程の感覚から急に身体が解き放たれた気がして、宗介は驚き目を見開く。
「‥‥でも、こうした方が疲れないんじゃない? どうして?」
半分まどろんだ様子でかなめが訊く。
「それは、その‥‥。君が後ろに居ると急に周りが寒々しくなると言うか‥‥」
今だ動揺を隠せず、しどろもどろ、宗介は応えた。
「あ~、ははぁ~~。 つまり」
すると、かなめは眠たい目で彼を面白そうに眺めてから
「‥‥千鳥‥‥‥‥?」

突然、宗介の肩に頬を摺り寄せた。

「寂しいのねぇ~~‥‥、ボン太くん。」
かなめは若干寝ぼけているようだ、そのままスリスリと彼の肩に頬を寄せる。
「俺はボン太くんでは無いのだが‥‥、その、そうだな前半の部分は、否定はしない。」
「ふう~~ん、そう‥‥‥‥」
彼女はそう言うと嬉しそうに尚もごろごろと頬を寄せてきた、その仕草はまるで甘える仔猫のよう。
「‥‥千鳥、あまりその、擦り付けると良くない。 顔が汚れるのでは‥‥」
「えー、そんな事無いけどー。 よっと‥‥」
そう言うとかなめは彼の背中から隣へと身を動かそうとしたのだが、眠い身体は想像以上に重たい。
彼の肩に乗せた頭を側面にずらそうとすると、その重みで全身のバランスを崩した。

「ふぁっ‥‥」
ぽすっ‥‥‥‥。

かなめは後頭部から何かに埋もれるように倒れ、次の瞬間、眼を開いた。
視界には夏の星座が映り、もうこんな時間なのね‥‥とまどろむ頭の端で思う。
それから視線少しを横に滑らせると、そこには。
「‥‥千鳥?」
そこには、どこか心配そうに見つめる宗介の顔があった。

「ご‥‥ごめん。」
「いや‥‥問題ない。」

バランスを崩して、かなめは宗介の膝を枕に寝転がる形になってしまったのだ。
男女が逆ではないか‥‥
それにこの格好では、宗介にまともに顔を見られてしまう。
寝ぼけた頭にもかなめは何となく気恥ずかしさを覚えていた。

だけど。
目の前には、都会では決して見ることが敵わない、プラネタリウムのような夜空が広がり。
それから、見守る彼の気配と、頬から伝わる彼の温もりが、直ぐ傍に在る。
(心地が良い)
かなめは心からそう思った。

「‥‥でも、このままで良い?」
少し申し訳なさそうに、それからはにかみながらかなめは訊ねる。
「ああ、構わない。 この方が、良いのなら。」
「うん、この方が良いよ。」
かなめはそういって、柔らかい笑顔を彼に向けた。
「‥‥俺も、この方が良い‥‥。」

続く

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