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の続き。完結です。

*************


「出してくれ、今、直ぐに!!」
宗介は救援に来たらしいヘリに乗り込んだかと思うと
同乗していたマオに向かって叫んだ。

「ちょっ‥‥あんた、今直ぐって、クルツは?ASは?」
「置いていく、奴なら人の邪魔伊達をするほど元気だ、問題ないだろう」
マオは短い逡巡のあと、ニヤッと笑って何かを察知した様子だった。

「ふーん‥‥。ま、いいわ、そういう事よ、出して頂戴!!」

「え?良いんですか?」
ヘリのパイロットが面食らうが二人は声を揃えて返した。
「良いのよ!」
「良いんだ。」

マオは宗介の正面に座り、軽くウィンクをして見せた。

(今回は特別よ)
(感謝する)


宗介は窓を流れる景色を眺めていた。
ヘリが、まるで天の川に沿うように滑る。
やがてヘリが向きを変え、ただ一点を目指してスピードを上げる。

その時ヘリは天の川を横切って滑空したので
まるで自分が、星の河を飛び越えたような、そんな気分だった。



星を越えて、距離を越えて。 今すぐ東京へ、彼女の元へ。



*************




PM 23:10

かなめは宗介の部屋のベッドの隅で、小さく丸くなって、震えていた。
その手にはしっかりと携帯電話が握られている。


‥‥‥‥バタバタバタ


ふいに外の方から何か、プロペラのような音がして、かなめはハッと窓の外を見る。


窓の外には何も見えなかった。
が、かなめは直ぐ理解した。ミスリルのヘリだろう。
恐らくはECSを作動させてホバリングしているところだ、街中で目立たないように。

いや、そんな事はどうでもいいのだ。彼が帰ってきた!! その喜びで、心だけ飛び出しそうだ。
時間は‥‥‥‥まだ間に合う。 きっとコレから感動的な再開を果たしてそれで‥‥‥‥。
かなめはアレコレこれからの事に胸を膨らませ、音のする方を見つめていた。

すると、突然ヘリのドアがスライドした、かと思うと何か黒いものが飛び出して

バリーーーーーーーン!!


それは窓を突き破って、ゴロゴロと室内に転がってきた。
勢いあまって反対側の壁にぶつかり「うっ」とか声を上げている。

「ソ、ソースケ‥‥‥‥‥‥」
ソースケと呼ばれた黒い塊が、むくりと起き上がり、かなめに近づいてくる。
辺りには砕け散ったガラスが散々になっていて、ソースケが歩くたびにバリバリジャリジャリやかましい。
あまりの事にかなめがあんぐり口を開けている。

「‥‥何コレ? ダイ・ハード? 
びっくりさせないでよ!! ったくあんたはもーーー‥‥、まともに帰って来れないの?!
‥‥あたしはテッキリもっとこう‥‥アレな感じで‥‥」
ぶち壊しよっ!!そう思っていたかなめを、ふいに温もりが触れる。

ふわっ‥‥‥‥。

突然、何も言わずに宗介が抱き締めて来た。

「そ、ソースケ?」
「‥‥千鳥‥‥すまない‥‥、千鳥、君が居なかったらきっと俺は‥‥‥‥」

きっとかなめの呼びかけが無かったら、諦めていた。
そう思うと、腕に力を込めずに居られない。
ぎゅーっと抱きすくめたまま、宗介は彼女の温もりを感じていた。

今になって初めて恐いと思う。死ぬことがじゃない、これを失う事をだ。

「ソースケ?」
かなめは彼の肩が震えていることに気付いた。

「‥‥お帰り、ソースケ‥‥」
かなめはそれ以上何も言わず、黙って彼の頭を撫でてやった。




*************



暫く、言葉を交わすでもなくそのまま抱き合っていた。
やがて宗介の頭を撫でるかなめの手が止まったので、宗介が顔を上げた。
心なしか、少し寂しそうな顔をしたので、かなめは噴出してしまう。

「‥‥?」
不思議そうにする宗介を尻目にくすくす笑って居ると、壁の時計が目に入った。

PM 23:40 

うん、まだ間に合う。
かなめは宗介と真正面から向き合うよう姿勢を正し。

言わなきゃね! 弱気な心にひとつ、気合を入れてから切り出した。

「誕生日、オメデト、ソースケ」


‥‥‥‥‥‥沈黙。
ちっ、ちっ、ちっ‥‥‥‥と時計が時を刻む音だけが木霊している。
早く何か言ってくれないと‥‥、逃げ出してしまいそう。かなめは縋る様な目で宗介を見る。

「むっ‥‥?」
やっとソースケから返った返事がそれだ。かなめはガックリ項垂れた。

「む、じゃないわよ。誕生日でしょ、あんた。」
「誕生日‥‥ああ、たしかに、そういう設定だ。」
「設定だ‥‥じゃないわよ‥‥。 まあ、そういう事らしいけど、関係ないわ、お目出度いのよ!喜びなさい!!」
「‥‥?そうなのか?」

先程までの甘ーいムードは何だったのか。一転して惚けた空気が流れ始めた。
これじゃいかん、と思ったかなめは、努めて真面目に宗介を見つめて

「そうなのよ。 お目出度いの、とっても、とっても幸せなことなの‥‥だって‥だってあんたが生まれたのよ!!」

死ぬほど恥ずかしかったけど、かなめは言った、満面の笑顔で。

「俺が居る事が‥‥?」

「そう!」

「幸せなのか?」

「そうだって言ってんじゃない‥‥?!」

「君が‥‥?!」

「あーうっさい、黙れ!そうだって!! 
‥‥‥‥あんただってそうでしょ?!生きてて‥‥嬉しいでしょ?」


じわり、じわり、なんだろう、宗介は自分の中から温かいものが広がってくるのを感じた。
頭の奥がドクドクと自分を高揚させる麻薬を出しているようで
眼の奥がジンと、熱い。‥‥何かとても、懐かしい感覚。

「ああ、嬉しい。」

そして続けて言った。心から。
「‥‥‥‥有難う千鳥。」

かなめにむかって宗介がぎこちなく笑って、心なしか、眼が潤んだ気がした、次の瞬間

ドサッ

「ソースケ!!!え‥‥ちょっと‥‥」

再び抱きすくめられた‥‥‥と思うとそのまま宗介の体重が彼女にのしかかった。
都合よくかなめはベッドの上に居たので、そのままふわりと、重なり合う形となる。

「そ、ソースケ‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
ソースケは何も言わない。が、代わりにかなめの首元に息がかかった。

「ちょっ‥‥ん‥‥‥‥。」
かなめは固く眼を閉じた。


いいじゃない‥‥、ね、素直になって、
だって、今日は、こんなに嬉しい、‥‥愛しい‥‥。


意を決してかなめは切り出した。

「ね‥‥、ソースケ。 あの、実はね誕生日プレゼント何も用意してないの。
‥‥だってあんたって、物に拘りなさそうだし、それより何か作ってあげようと思ってて‥‥
でも。あの‥‥その‥‥。今日は‥‥」


――あたしを‥‥‥‥。




‥‥
‥‥‥‥‥‥



「‥‥スー‥‥スー‥‥」




かなめは最後まで言わなかった事を、心から良かったと思う。
「‥‥‥‥‥‥まさか」
そう、そのまさか。
「‥‥スー‥‥スー‥‥」
かなめは宗介の顔を覗き込む。



「あはは‥‥‥‥ね、寝てる‥‥‥‥」
ガッカリしたような、ほっとしたような。それからちょっと憎らしい気分だった。
だからかなめは、ぎゅっと宗介の鼻をつまんでやった。

「すー‥‥‥‥むっ‥‥‥‥ふもっ‥‥‥‥」
宗介は顔を少ししかめてから、謎のうめき声をあげたが、起きない。

「‥‥ったく、ふもじゃないわよ、ふもじゃ!!」
言いながら、かなめの頬は高潮している。その寝顔が、仕草がとても可愛いものだから‥‥。

「ソースケ‥‥」





‥‥
‥‥‥‥‥‥ちゅ。




気付いたら、かなめは彼の頬にキスをしていた。




「‥‥‥‥むーん‥‥‥‥‥‥千‥鳥‥‥‥‥‥‥」
名前を呼ばれたので、起こしてしまったかとヒヤヒヤしたが、どうやら夢でも見ているようだった。
とても幸せそうな顔をしながら。

「おやすみ、ソースケ‥‥」
二人は仲良く、幸せな夢に落ちて、慌しい七夕が終わった。
翌日も学校。そんなことスッカリ忘れて仲良く遅刻したのは言うまでも無い。



[完]

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