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冬向けSS、その1。


椅子の上にどっしりと腰を落ち着け、相良宗介は腕組して思案していた。
不揃いな前髪の奥で引き締まった眉をしかめる。
何だろうかこの違和感‥‥
何時もの学校、何時もの教室、何時もの級友達‥‥
周りの風景は普段どおりの筈なのに。
宗介はちらりと腕時計をみた。
そう、時間だ。
この時間には既に、何時もある筈のものが、無い。

「相良くーん」
「妙だ‥‥」
「ねーさーがーらーくーん、てば!!」
考えあぐねて居たところ、突然視界にピョコンとお下げの少女が飛び込んできた。
級友の常盤恭子だ。宗介は僅かに動じるが直ぐに落ち着きを取り戻し訊ねる。

「常盤か、何だ?」
「相良くん、カナちゃん今日欠席だって、知ってた?」
「いや‥‥初耳だが。 そうなのか?」
その時ようやく解決した。今朝からの違和感、その原因。
そう、千鳥かなめが居ないのだ。
「‥‥どうかしたのか?」
「んー。‥‥ちょっとね。」
恭子が意味深に返答した。
その様子を宗介は訝って、さらに情報を得ようと試みる、が。
キーンコーン‥‥‥‥
「あ、授業始まっちゃう。 じゃ、またね相良くん。」
「なっ、待て常盤一体何が‥‥!!」
始業のチャイムが鳴り、恭子はスタコラと自分の席に着いて話しが終わってしまったのだった。
疑問が疑問のままでは、宗介の心中穏やかでない。
彼はギコチ無く椅子に座ると、額から幾筋もの汗が流れ始めた。
(何故?何故千鳥は来ないのか?)

事件か?
事故か?
拉致か?
はたまた
食品偽装問題か?

僅か数秒の間に信じられないほどネガティブで陰気な憶測が宗介の脳内を飛び交う。
「常盤‥‥何を隠している」
「相良くんは、その物騒なものを隠しなさい。」

陰鬱な表情で横を見ると担任の神楽坂恵里が困り顔で立っていた。
それというのも、あろう事か授業中に宗助が武器という武器を机に並べて整備点検を始めていたからである。

「はっ!これは申し訳有りません。物思いに駆られており、つい。」
宗介が上官でも相手にするかのような口ぶりで言うと、恵里は深い溜息を漏らした。
「‥‥はぁ~、あなたは物思いに耽ると『つい』こういう危ないものを弄り回すわけね。 『つい』ね‥‥。うんうん人間誰しも良くある、良くある事かも知れないわね。 うんうん‥‥。」
「そうでしょうな。」
宗介は然もありなんと応える。
「‥‥なわけないでしょう‥‥。 まあ相良くん、今回は良いから早くしまって教科書を ‥‥、あっ」
恵里は宗介を手伝おうと手を伸ばした拍子に、何か円筒形の物体を取り落とした。
「むっ‥‥、いかん!!伏せろ!!!」
「え?きゃあああああああ!!」

――バシュウウウウウウウウウ!!

床に落ちた衝撃でM18スモークグレネードがやかましい音と共に炸裂し、あたりはたちまち煙に巻かれた。
棒立ちの恵里、床に倒れ伏せる級友達。
(またやってしまった)
という遅すぎる後悔の後、宗介がすべき事は決まっている。
「くっ」
そう、次なる衝撃に備える事だ。
大抵は自分の予測の斜め上を行く事が大半なので、それを防ぐ事は毎度ほぼ不可能に近かった。
今日は上からか、下からか、はたまた‥‥。

「‥‥‥‥?」

しかし何時まで待ってもそれは来なかった。来るはずが無かった。
目が醒める様な鮮烈な衝撃。そう、かなめによる折檻は、今日はある筈が無い。

「そうか‥‥‥‥。」

ボロクソな周囲の非難には耳も貸さず、宗介はスプリンクラーのシャワーに打たれてただただ立ち尽くしていた。



それ以降、宗介は何時ものように『張り切って』馬鹿をやる事無く。
非常に大人しかった、というよりも非常に暗かった。
スプリンクラーのシャワーでびしょ濡れになったにも関わらず着替えようとも乾かそうとすらせず、じっ‥‥と自分の椅子に座ったまま。
「相良君カビかキノコでも生えちゃうんじゃあ‥‥」
「いや寧ろヤツ自身が菌類の類に思えてくるぜ‥‥」
色々といわれている事など気にも留めず、時々うわ言のようにぶつぶつ言うだけだった。
恐いくらいの平和な時間が過ぎ、4時間目の終業と共に昼休みに突入する。

あまりにも大人しい(暗い)ので、逆に恐くなったクラスメイトの一部は宗介を観察していた。
「アイツなにやってんの?」
「飯食うんじゃねえの? ほら、カロリーメイト」
「あ、でも、机にしまったよ?」
「いや、また取り出した‥‥取り出して‥‥首を捻って‥‥‥‥」
「またしまったよ?」
「早く食えよ‥‥‥‥」
しかしそこで、突然宗介がカバンを持って立ち上がったのでクラス中に緊迫が走った。
本人はまるで自覚が無いが、注目の中宗介の次の言葉が紡がれる。

「常盤、俺は帰るぞ。こうして居る間にも千鳥は脅され、仕方なく自らの衣類を脱ぎ、仕方なくその身を‥‥」
「違うよ!!ていうかなんでそうなってんの?! なんでカナちゃん先ず脱ぐの!?なんて助平なの相良くん‥‥。」
恭子は軽くドン引きして顔を引き攣らせている。

sashie10.jpg

「ち、違うのか‥‥? いや、しかし帰る! 堪らないのだこの違和感‥‥。まるで何時もと何もかもが違う、調子がおかしい。」
「相良くん?」
どこか焦りを見せる宗介に恭子が不思議そうに首を捻る。

「おかしい、おかしいのだ何か‥‥
 そう、例えばだ。この時間なら、今頃千鳥が弁当を馳走してくれている。しかし今日は違う。
 ‥‥この違和感が激しい脱力感を誘う、何だ? 何故俺はこの様に動揺する? この胸騒ぎは一体。」
「いや相良くんそれって‥‥」
「常盤、教えてくれ。何故、何故居ないのだ千鳥は。」
宗介がついに話の核心に触れると、恭子はしばし何か言いたげに黙ってそれから。
「うん、しょうがないなあ。」
やれやれとジェスチャーをして、話し始める。

「あのね、カナちゃん風邪ひいちゃったの。」
「風邪?」
「うん。 なんか昨日の夜‥‥、色々張り切っちゃったらしくて、ね。」
「何を、だ?」
「例のごとくお弁当‥‥ううん、やっぱり何でもないよ! ごめんこれは相良君には、言えないなあ~。あでも大丈夫、変な事考えないでね?」
「‥‥うむ」
納得がいかない、と表情に丸出しだが宗介はなんとか頷いた。

「兎に角帰っちゃ駄目。さっきカナちゃんに電話したけど、まあ‥‥大丈夫だと思うし。 それに古典の授業だけは絶対出るようにって私念押されちゃったんだよ相良くん。」
「そうか、‥‥しかし本当に‥‥」
「もーー、そんなに気になるなら相良くんも電話してみたら良いじゃない、カナちゃんに。」
「‥‥いや‥‥しかし特に用事がある訳でもなし‥‥」
宗介はかなめに電話をよこす事はこれが初めてではない。
任務の前後など、これまでなんども、それも造作無く。
しかし‥‥。
「そんな事ないよ、様子が気になるんでしょ?これって立派な用事。」
「‥‥い、いや‥‥。」
恭子の後押しも虚しく、宗介は躊躇いがちに俯くだけだった。

恭子の発言により彼女の無事は確認した。
最早任務という大義名分がある訳ではない、それなのに彼女に電話をするという事は‥‥。
それは突発的でどこか独りよがりなような‥‥
しかも彼女との関係の中で、新しい試みのように思えて酷く躊躇われたのだった。

用も取り付けも無いのに電話する関係とは、それでは、まるで‥‥。

「やはり俺は帰ろうと思うのだが‥‥目視で無事を確認する。(こっそり)」
「駄目だって!!行くなら放課後によりなよ。」
煮え切らないこの朴念仁の態度に温和な恭子も業を煮やしたのか少し強い調子で返した。
「しかし」
「もーーー見てらんないなあー。あてられちゃうよ。」
「?」
「カナちゃんの親友として絶対帰らせないからね!!その代わり良い事教えてあげる。」
恭子は人差し指をピッと差し出して言った。
なんだか少し楽しそうな様子だが‥‥、宗介は至って真剣に聞き返す。
「良いこと?なんだ?」
「カナちゃんに何かプレゼントしてあげて。うんと喜びそうなもの。 病気の人にお見舞い持ってくのは常識なんだよ、それにカナちゃん、きっと元気になるから。」
「そ、そうなのか?」
宗介は異文化に触れた外国人の心境だ。
「そうなの、ただしいっつも相良くんがあげてるような変なのじゃ駄目だよ?!
 カナちゃんが喜ぶもの、よーーーく、考えてね!」
「むう‥‥イマイチ自信が無いのだが、常盤すまないもう少し明確に‥‥」
「だあーめ。これは相良くんの問題だよ。じゃ、頑張って・ね!!」
恭子は可愛らしいウインクを宗介にバチッ☆となげかける。
対して宗介は、への字口のぶすくれた顔をさらにしかめて返す。正直失礼極まりない。

続く

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